拒絶理由通知との対話(4)〜行間を読む

 皆さん既にご存じのように、以前本ブログで紹介した書籍「拒絶理由通知との対話」のニューバージョン「新・拒絶理由通知との対話」(弁理士 稲葉慶和先生著)が発売された。現行のプラクティスに応じた数々の修正がなされているものの、”拒絶理由通知の行間を読んで、審査官の意図を汲み取る”というテーマは旧版と殆ど変わっていない。旧版の雰囲気をなるべく残そうという著者の意図だろうか、旧版で登場した人物(今 裕太氏、お〜、亜土弁理士もいるじゃん。なんと、井草審判官はまだ定年退職していなかったのか〜) が今回も登場している辺りの演出が、旧版の読者であった特許男(壱)にとっては、何となく嬉しい。きっと、今回の新版も多くの読者に受け入れられることだろう。

 さて、拒絶理由通知の”行間を読む”であるが、様々な点で審査官とのコミュニケーションが取りやすくなった今日、初版出版時の18年前ほどの難しさは薄らいだ感もある。不明な点は、即、審査官に電話して聞けば良いんだからねー。しかしながら、手段が容易になったからといって、行間を読む重要性までもが薄らいだわけではない。「自分が審査官だったらこう記載するのに、なぜ、今回の審査官はそう記載せずに、このように記載してきたのだろう・・・?」と素朴に疑問に思うこと、そして、この疑問を起点にあれこれ思いを巡らすことは、適切な応答を導き出す上で極めて大切なことだ。審査官の意図を知った上で、出願人側の思惑との擦り寄せを図るべく創意工夫することは、代理人たる弁理士の実力が最も試されるところでもある。
 これに対して、こんな意見を伺ったことがある。「”行間を読め”なんちゅー謎解きを出願人に強要すること自体、非効率的だし不親切!審査官の意図なり、審査官が許可する補正クレーム案なりを明示的に示してくれる方がよっぽど親切だ。ヨーロッパの審査官だってそうしているじゃないか!」・・・と。でも、特許男(壱)は、必ずしもそうは思わない。なぜなら、審査官がそこまで介入すべきではないという一般論もあるが、それ以上に、審査官に言われるがままの対応(権利化重視の対応)では、経験則上、強力な特許権の取得など望むべくもないからだ。言うまでもなく、権利化重視の場合、特許性が最も高まるような安全策的なクレーム限定が行われる傾向があり、意見書でも特許性のアピールが最大限になされる傾向がある。でも、このような方向で権利化された特許は、元のアイディアがどんなに素晴らしくても、権利行使に難があることが多い。その結果、企業の係争担当者は、他社製品との対比において、「こんなクレーム限定さえなければなぁ・・・」とか、「意見書で何でこんな余計なことまで主張してるんだよっ!」とか宣って、喜怒哀楽(除く喜&楽)を顕わにするのである。まぁ、お約束の”たられば”ってやつですね。ここいら辺は、出願人の権利活用意識や係争ノウハウが乏しかった昭和時代、或いは、平成初期の特許に権利活用できるものが如何に少なかったかという事実(まぁ、これはクライアントにもよると思いますが・・・)からも伺い知ることができよう。特許庁の審査官が、このような権利活用の酸いも甘いも熟知したいるならばまだしも、現実的にはそれが期待できない以上、審査官が提示する補正クレーム案など、”権利活用を熟知した”出願人の多くにとっては、にわかには受け入れ難い、というのが偽りなき本音であろう。

 ところで、”行間を読む”という言葉の意味を突き詰めて考えてみたとき、これは、特段、拒絶理由通知に限った話ではなく、実は、我々の日常業務でも随所に要求される事項であるのに気付く。例えば、クライアントから明細書原稿チェックが戻ってきて、メインクレームが実体的に修正されていたとする。この場合、たとえ、発明の目的や発明の効果に修正がなかったとしても、その趣旨に鑑み修正が必要と思ったら、目的・効果の修正を自発的に試みるか、少なくとも、修正の必要性くらいはクライアントに問うて然るべきである。クライアントが明示的に指摘していない事項に対しては全く思いを巡らせることができない(或いは、それをしようともしない)代理人など、行間が読めない人とクライアントに一蹴されるのがオチである。クライアントがクレーム修正だけを指示すれば、その意図を読み取った代理人が、それ以外の部分をストーリを含めて適切に修正してくれる、このような信頼関係が、本来、クライアントと代理人との間に構築されて然るべきだ。同様に、例えばクライアントとのミーティン時に、場の雰囲気を読むこと、或いは、参加者の思惑なり価値観を把握することも、とても重要だ。”行間を読む”という言葉を、表の部分(字面)に現れていない裏の部分(背景)を汲み取ろうとすること、或いは、物事を多面的に捉えようとすることといった意味で捉えるならば、それは、弁理士に限らず、ビジネスマンに共通して要求される普遍的な資質ではないかと思う。そして、そもそも、これを抜きに遂行できる業務など殆ど存在しないのではなかろうか。

 集中するとつい他に目が行かなくなりがちな自分ゆえに、”行間を読む”ことの大切さをあらためて肝に銘じよう・・・、かく思った特許男(壱)であった。


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  1. 2006/08/28(月)|
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コメント

ここで言う「行間を読む」というのは、そうだと思う。
と、言うよりも、当たり前。
それよりも、「行間を読む」いう言葉が独り歩きして、相手に伝わらないような言葉足らずの文章を書いていて、「行間を読めよ」というのは、言語道断。
ましてや、書面でやり取りするのであれば、ニュアンスが伝え難いのであるから、相手の立場に立って伝えようと努力すべきである。
これは、審査官、クライアント、事務所側のいずれでも必要なことだと思う。
その努力もしないで、大上段に立ってものを言うのは、能力のない人だと思う。
その上で、さらに相手の意図を汲み取って、先のことまでも尽くした仕事をするのがお互いに取ってのベストだと思っている。

また、審査官の補正の方向の提示も、歓迎である。
それはあくまでも案であるので、その案が出願の意義に一致するのであれば、それに越したことはない(だいたい、そうはならないが)。
その上で、ベストな対処を検討すればよいだけである。

あくまでも、出願の決着は、出願人側である。

それだけである。
  1. URL |
  2. 2006/08/29(火) 17:08:24 |
  3. 一歩 #mQop/nM.
  4. [ 編集]

一歩さん、コメントどうもありがとうございます。

>それよりも、「行間を読む」いう言葉が独り歩きして、相手に伝わらないような言葉足らずの文章を書いていて、「行間を読めよ」というのは、言語道断。

仰る通りですね。私達は書面主義をベースに仕事をしているわけですから、基本的に、言外の意図を前提に物事を議論すべきではありません。ましてや、自分の書いた文書の稚拙さを棚に上げて、行間を読めないおまえが悪い!なんて宣うのは言語道断!!
 その一方で、自分が仕事で接する周りには、そもそもの文書能力に難がある人、様々な制約から文書を書きたがらない人、他人に物事をきちんと伝えようというサービス心が著しく欠落している人が少なからず存在します(彼等が皆、書面主義下で仕事をしているわけではない)。そういった人達を相手にコミュニケーションを取らなければならないケースでは、現実問題として、行間を読むことの必要性を感じるのも事実です。
 自分が書く文書については十分な自己厳格性(行間に頼ることなく字面だけで相手に意図を伝えられること)を備えつつ、他人が書いた文書については行間を含めて理解することができる柔軟性を備えた、そういった実務家を目指したいものです。
  1. URL |
  2. 2006/08/29(火) 18:20:10 |
  3. 特許男(壱) #8rqY0Uyg
  4. [ 編集]

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  1. 2006/08/29(火) 01:20:03 |
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