特許調査をやっていると、クレームにも色々なスタイルがあるのだなぁ、とつくづく実感する。ここ一週間、特許調査に没頭しているが、今日もこんなクレームにお目に掛かった。
【請求項1】
つぎの特定事項(1)〜(4)を充足する発明。
(1)ネットワークを通じてアクセスしてきた利用者コンピュータと通信し、利用者の求めに応じたサービス情報を送達するWWWサーバーである。
(2)利用者コンピュータに対して前記サービス情報とともに送達して可視化させるための広告画像データを集約した広告データベースを管理する。この広告データベースの広告画像データは番組単位で区分されており、各広告番組には広告コンセプトや広告ターゲットに関連した属性データが付けられている。
(3)利用者コンピュータで前記広告番組を映像出力する際に同時に音響出力するための音声データを集約した音声データベースを管理する。この音声データベースの音声データは番組単位で区分されており、各音声番組にはそれが醸し出す雰囲気や制作コンセプトに関連した属性データが付けられている。
(4)利用者コンピュータとの通信により取得した利用者入力データに基づいて、前記広告データベースにおける前記属性データとのマッチング処理により前記利用者コンピュータに送達する前記広告番組を選出するとともに、前記音声データベースにおける前記属性データとのマッチング処理により前記利用者コンピュータに送達する前記音声番組を選出する。
なんと、平文形式のクレームである。その意図は、クレームの係り受けの複雑さを解消する点にあると思われるが、極めて独創的というか何ともチャレンジングな表現だ。この案件を代理している特許事務所は、他の案件もこのスタイルが多いので、組織的にこのスタイルを踏襲しているようである。Combination型やJepson型といったオーソドックスなスタイルが確固たる主流を占める中で、こういった斬新なスタイルを最初にチャレンジするのには、相当勇気が必要だったろうから、そのチャレンジ精神には素直に拍手を送りたい(まあ、Combination型の単なる形式的な変形ともいえなくもないが・・・)。それにしても、”〜を充足する発明”ってのは強烈だよね。個人的には、せめて”〜を充足するWWWサーバー”くらいにして欲しかった(笑)
ただ、特許男(壱)としては、こういったスタイルのクレームを書けといわれても書かないだろう。理由?そんなものはない。「クレームの読み方に馴れていないクライアントでも読めるよねー」、「このスタイルで記載不備ってこともないし、事実、登録実績もあるんだよー」などと言われようと・・・。まあ、強いて理由を挙げれば、長い実務経験から、個人的に馴染まないからということになろうか。いくら論理で商売する職業だと言っても、タマにはそういった部分があっても良いんじゃないか。そういうのって”コダワリ”っていうのかな。そうそう、最近では、「〜等」っていうクレーム表現も散見されるけど、企業時代の強烈な刷り込み学習により、自分的にはこれもぜったいにNG!そもそも、そんな表現使わなくても、クレーム書けるし。自分が審査官だったら、「”〜等”というクレーム表現では、クレームの外縁が不明確である」との拒絶理由を是非とも打ちたいところだ。
話は変わるが、斬新さや応用というのは、確固たる基本を踏襲してこそ、はじめて意義あるものになる。基本をおろそかにしたものは、単なる奇をてらったものに過ぎない。応用を自在に操れる人ほど、実は基本に極めて忠実だし、また、そうあるべきだと思う。応用を指向する人がチョロッと垣間見せた基本に不忠実な部分というのは他人の目に案外付きやすいという現実を考えると、なおさらだ。
【請求項2】
請求項1に記載の特定事項(4)をつぎの特定事項(5)および(6)に置換した発明。
(5)情報サービスの対象者となる多数の利用者についての個人情報が集約された利用者データベースを管理する。
(6)利用者コンピュータとの通信により利用者を同定し、前記利用者データベースから該当者の個人情報を取得し、その個人情報に基づいて、前記広告データベースにおける前記属性データとのマッチング処理により前記利用者コンピュータに送達する前記広告番組を選出するとともに、前記音声データベースにおける前記属性データとのマッチング処理により前記利用者コンピュータに送達する前記音声番組を選出する。
って、おいおい・・・?
【追記】 なお、日本のプラクティスでは、【請求項2】のような構成要件の置換は、基本的に適法です。”って、おいおい・・・?”という一文は、特許男(壱)の誤解によるものであることが、事後的に判明したため、その点をここでお詫びしますーm(_ _)m
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- 2006/07/31(月)|
- 明細書系
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ユーザのアクティビティをトラッキング
とかなかなかいい味出してますね!
- URL |
- 2006/08/01(火) 01:30:21 |
- 通りがかり #-
- [ 編集]
チャレンジャブルなクレームで大変結構だと思いました。時代の変化とともにクレームも変わっていっても良いのかと。(例えば契約書に図面を引用すると分かりやすいとかと同じで・・・)
特に請求項2は無駄なリピートを省いた立派な独立クレームだと思います。
ただ、明細書にはもっと具体的な実施例を書かないといけないと思いました。
では。
- URL |
- 2006/08/01(火) 13:28:29 |
- 特許酔法師 #-
- [ 編集]
特許酔法師さん、コメントどうもありがとうございます。
>チャレンジャブルなクレームで大変結構だと思いました。時代の変化とともにクレームも変わっていっても良いのかと。(例えば契約書に図面を引用すると分かりやすいとかと同じで・・・)
なるほどー。このスタイルに対して抱く印象は、人それぞれ色々とあるんですね。特許男(壱)が、然したる明確な理由なくこのスタイルに否定的なのは、自分が古い人間になった(若しくは、なりつつある)証拠なのかもしれません(笑)
>特に請求項2は無駄なリピートを省いた立派な独立クレームだと思います。
えっと、特許酔法師さんが、請求項2を独立クレームと判断された理由がよくわかりません。自分は、請求項1を引用しているので従属クレームだと思っていましたが・・・。よろしかったら、その理由を説明していただけませんか?
- URL |
- 2006/08/01(火) 22:30:06 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
- [ 編集]
通りがかりさん、コメントどうもありがとうございます。
あー、確かに別案件でそういうのがありますね。
まぁ、外内ですから、「ユーザのアクティビティをトラッキング〜」っていう訳もしょうがないかも・・・。でも、原文を容易に想起できるという点で、むしろ好ましいかもしれません(半分は冗談ですが)。
「使う人の活気を追尾する〜」なんて訳された日にゃ、追尾=”lock on (to)"で、ミサイルか何かが思い浮かんじゃいそうですね〜。
- URL |
- 2006/08/01(火) 22:50:42 |
- 特許男(壱) #-
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平文形式のクレームですが、著しい違和感があるので、個人的にはNGですね!
通常のCombinationクレームでも、書き方を工夫すれば、それなりにわかり易く書けるし、こんな市民権をまったく得ていないような奇をてらった表現(少なくとも私は今まで見たことがない)を敢えてする必要性は感じられない。
それと、新しいものに対する偏見もあるのかもしれないが、サブクレーム(請求項2)の基本的なルール(メインクレームで挙げた構成要素の置換は×)が守れていない(理解していない?)点についつい目が行ってしまうのは私だけではないと思う。単なる揚げ足取りと思うなかれ。そういった細かいミスがクライアントにはとても気になるのである。
こんな凡ミスが平気で犯すような事務所が推奨するスタイルがコンセンサスを得るのは難しいように思う。
実務経験が長いもので、ついつい強い口調になってしまい申し訳ありません。
- URL |
- 2006/08/02(水) 02:09:22 |
- maisen #cflnYRWg
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こんにちは。
>自分は、請求項1を引用しているので従属クレームだと思っていましたが・・・。
いえ、このクレームは明らかに独立クレームです。その理由は上のコメントでmaisenさんが逆説的に解説いただいたとおりです。
詳しくは審査基準「2.2.4.2請求項の記載形式−独立形式と引用形式−」を参照ください。 では。
- URL |
- 2006/08/02(水) 09:58:32 |
- 特許酔法師 #-
- [ 編集]
面白い材料(クレーム)をありがとうございます。
確かに、個人でも出願できるのであるから、色々なクレームは目にしますが、このパターンは初めて?だと思います。
クレームは、善意の目で(関係者の目で)見れば理解できる(理解したつもりになれる)のですが、悪意の目で見ると、どのような発明なのか分らないなどなど、色々な意見が出てくると思います。
そのような悪意の目で見られてもぶれないクレームが良いと考えています。
このことからすると、良し悪しは別にして、先人達が作り上げたパターンというのは、結構練れているのだと思います。
ただ、発明によっては、掲題のパターンのほうが良い場合があるかも……。記載形式の縛りはないことから、いいのですが、いずれにしても、何が何をどのようにどうするのかなどを明確にして、一つの発明としてまとめることが重要だと思います。
なお、独立か従属かの件ですが、それぞれの視点によって(見る立場から)異なると思われることから、そこを統一する必要があると思います。
例えば、引用は引用でいいのですが、別個の発明を独立というのであれば、構成要件が置換されていれば、引用形式で書かれていても独立。
被引用クレームの補正に引き摺られるのを従属というのであれば、引用形式のクレームは従属。
と、なると、思います。
真剣に考えているわけではないので、突っ込み、批判はご勘弁ください。
いずれにしても、このような面白いエントリーは、他には期待できません。
楽しみにしていますので、今後とも、よろしくお願いいたします。
- URL |
- 2006/08/02(水) 16:26:26 |
- 一歩 #mQop/nM.
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審査基準に明記されているように、構成要素の置換はOKなんですね。部品クレームを引用した完成品クレーム(別カテゴリの引用形態)がOKなのは知っていたのですが、日本のプラクティスがここまで自由度が高いとは、知りませんでした。特許酔法師さん、一歩さん、どうもありがとうございますーm(_ _)m
というわけで、本エントリに追記という形でその旨を明記いたしました。
なお、「独立クレーム」および「従属クレーム」ですが、一歩さんが仰るように、用語の区別を明確にする必要がありますね。そこで、本ブログの
”エントリ”では、実質的に別個の発明であるか否かという実体主義ではなく、形式的に他のクレームを引用しているか否かという形式主義の立場を引き続き採用しますので、そういう意味でご理解下さい。
- URL |
- 2006/08/02(水) 20:40:25 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
- [ 編集]
>良し悪しは別にして、先人達が作り上げたパターンというのは、結構練れているのだと思います。
自分のことをあらためて振り返ってみると、書かれている事項の実体について疑うことはあっても、書き方という形式自体を疑ったことって、あまりないような気がします。以前、”そーいうモン!”という記事を書きましたが、そーいうモンとして洗脳されてしまっていたのかもしれませんし、そういった形式論をとやかく言ってもあまり意味がないと思ったのかもしれません。いずれにせよ、実体がしっかりしていれば、形式は好みということで・・・・。
>発明によっては、掲題のパターンのほうが良い場合があるかも……。記載形式の縛りはないことから、いいのですが、
確かに、オーソドックスな組合せ形式のクレーム(Aと、Bと、・・・を有する〜)を書く際の難しさである『未だ登場していない役者さん(構成要件B)はそれより前に位置する別の役者さん(構成要件A)の説明で引用できない』という縛りから解放されるというメリットはありますね。その縛りがあるからこそ、構成要件の記載順序をあれこれ入れ替えたり、wherein的な表現(例えば、Aと、Bと、Cとを有し、前記Aは〜であることを特徴とする〜)したりと、まるでパズルを解くかのようなテクニックが要求されるわけですから。
まぁ、自分的には、これもクレーム作成の楽しみ(?)の一つだと思ってますし、うちの所員に対しても「クレームはパズルだ!」と言ってます。
- URL |
- 2006/08/02(水) 21:32:41 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
- [ 編集]
わかりやすい・・・と言えなくもないんですが、個人的には「違和感あり」に一票です。
請求項1を先頭から読み始めた時は、平文クレームというか、「英文のクレームを和訳したもの?」という印象でした。
- URL |
- 2006/08/02(水) 23:14:31 |
- No name #-
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私も、話題の種のクレームの書き方は、NGと思っていますよ。
公報を見れば分かるように、いろいろな記載形式があって、その縛りはないことから自由が前提なのでしょうが、クレームとして役に立たないのはだめ、というポジションです。
批判するつもりはないのですが、話題のクレームもはっきりしないので、個人的にはNGですね。
- URL |
- 2006/08/03(木) 00:11:27 |
- 一歩 #mQop/nM.
- [ 編集]
この形式のクレームで提訴されました。それも2回です。結果は2回ともこの明細書を書いた
- URL |
- 2006/08/03(木) 10:51:06 |
- この #-
- [ 編集]
”この”さん、
「この形式のクレームで提訴されました。それも2回です。結果は2回ともこの明細書を書いた」の続きがえらく気になるのですが・・・
その続きをお願いします。
- URL |
- 2006/08/03(木) 17:21:37 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
- [ 編集]
この desu
同業者を誹謗すると懲戒の対象となる虞があるので、書いた方の氏名は勝手に調べてください。「充足する発明。」のキーワードでIPDLを検索すると20個の公報が表示されます。
書いた方から2回の特許訴訟を提起され、その方の明細書では勝訴できず、1つは取り下げ、1つは原告敗訴です。IPDLの経過検索を調べると、20個の出願は、ほとんどのクライアントから切られているようです。2000年当時ではソフトウエア関連出願のクレームの立て方のガイドラインが存在していないため、このような結果となったと思われます。なお、現状ではガイドラインも確立され秩序ある運営が定着しつつあります。
- URL |
- 2006/08/04(金) 10:33:52 |
- この #-
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話題にしているクレームの記載で、どう評価されたかについて非常に興味あります。
「書いた方から2回の特許訴訟を提起され、その方の明細書では勝訴できず、1つは取り下げ、1つは原告敗訴です。」
この特許訴訟というのは、拒絶審決取消訴訟なのでしょうか?
それとも、侵害がらみの訴訟なのでしょうか? 侵害訴訟とすると、特許になっている(審査を通っている)出願が存在するということになります。で、この場合には、敗訴した理由は何なのか?
「その方の明細書では勝訴できず」というのは、無効審決または無効扱いで敗訴? それとも、そのクレームで発明を特定したが敗訴?
「2000年当時ではソフトウエア関連出願のクレームの立て方のガイドラインが存在していないため、このような結果となったと思われます」
ということは、拒絶審決取消訴訟ということなのでしょうか?
文章全体の雰囲気からすると、審決取消訴訟なのかなと思いますが、上記のいずれも文章の中からの推定に過ぎません。
すべてについてあたれば分かることですが、差し支えない範囲でご存知のことを教えていただけたら、助かります。
よろしくお願いいたします。
- URL |
- 2006/08/06(日) 16:54:19 |
- 一歩 #-
- [ 編集]
ちょっと(っていうか、かなり)レスが遅れてしまいましたが・・・m(_ _)m
あくまで推察ですが、訴訟(審取訴訟)を提起されたとしても、平文形式の是非が直接の争点になった訳ではないと思います。そういった話を聞いたことはないし、クレームの記載要件等に鑑みても、平文形式自体に違法性があるとも思えないので・・・。そうだとすると、平文というクレーム形式の是非と、訴訟提起の有無とは、全く以て無関係ということになるかと思います。
平文形式のクレームに関しては、(1)それを用いたからといって、出願人に特段の不都合が生じるわけではない、(2)それを用いるかは、書き手の好みの問題ということで、一応、締めさせていただきます。
もとより、本ブログは、特定人を誹謗中傷することを意図したものではない事は周知の通りで、”前向きな”情報発信というブログの趣旨を汲み取って下さる良識ある方々がコメント下さることをブログ運営者としても大変ありがたく思っております。ただ、コメントを書き込む際には、読み手が著しい”?”を感じたり、消化不良を起こしたりしないように、書き込むコメントに対しては、ある程度の責任と配慮を持って頂ければ幸いです。
- URL |
- 2006/08/18(金) 21:06:50 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
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