今回は、架空の世界における架空のお話しです。
むかしむかし、創業寛永六年という伝統的純和風系企業の知財部に、弁理士の資格を持たないA君という若者がいました。企業内”非”弁理士(って、単なる従業員のことじゃん。あーでも、資格があっても従業員か・・・)のA君は、ある技術分野の出願担当をしていました。
あるとき、本社知財部から「下」と銘打たれたお達しがありました。このお達しには・・・
『明細書の【課題を解決するための手段】には、各請求項に対応する作用・効果を記載するよう。このこと下々によくよく申し付けておく!』
と書かれていました。A君は、
”各請求項に対応した作用・効果は書かない派”だったので、自分が担当する案件については、自分のスタイルを踏襲するように特許事務所にお願いしていたのですが、女将、もとい”お上”からのありがた〜いお達しがあった以上、異論を唱える余地などありません。早速、手持ちの明細書原稿のチェック案件に関して、お達しに準じた新たなスタイルで書き直してもらうよう、事務所担当者に修正依頼を出しました。
数日後、事務所担当者より修正版が届きました。修正箇所の抜粋を以下に示します。なお、
※印は、事務所担当者のコメントです。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
所定の経路を介して供給された駆動電流に応じて発光する発光素子と、
発光素子より放出された光を受光し、受光した光に応じた光電流を出力する光電変換素子と、
光電変換素子より出力された光電流の積分値を電荷として蓄積する第1のキャパシタと、
第1のキャパシタに蓄積された電荷に応じて設定される第1の電圧が、データ線を介して供給されたデータに応じて設定される第2の電圧に達したタイミングで、出力電圧のレベルを切り替えるコンパレータと、
コンパレータからの出力電圧に応じて導通制御され、第1の電圧が第2の電圧に達していない場合には、発光素子を発光させるとともに、第1の電圧が第2の電圧に達した場合には、発光素子の発光を停止させる第1のスイッチング素子と
を有する画素回路を提供する。
【0007】(
※ご要望により追加しました)
上記請求項1記載の発明によれば、
所定の経路を介して供給された駆動電流に応じて発光する発光素子と、
発光素子より放出された光を受光し、受光した光に応じた光電流を出力する光電変換素子と、
光電変換素子より出力された光電流の積分値を電荷として蓄積する第1のキャパシタと、
第1のキャパシタに蓄積された電荷に応じて設定される第1の電圧が、データ線を介して供給されたデータに応じて設定される第2の電圧に達したタイミングで、出力電圧のレベルを切り替えるコンパレータと、
コンパレータからの出力電圧に応じて導通制御され、第1の電圧が第2の電圧に達していない場合には、発光素子を発光させるとともに、第1の電圧が第2の電圧に達した場合には、発光素子の発光を停止させる第1のスイッチング素子と
で画素回路が
構成されているので、表示の均一性を有効に確保することができる。
・・・(以下、請求項2以降についても同様のパターンで修正されている。なお、改行は文章を読みやすくするために便宜上追加。)
”ん?なんじゃ、こりゃ!?全然、作用・効果として筋が通っていないじゃん。これじゃあ、この構成から”なぜ”表示の均一性を確保できるのかさっぱりわからないよ。キチンと作用的に記載してくれなくちゃ!”
そう思ったA君は、事務所担当者に、「構成ではなくキチンと作用的に記載して欲しい」旨の指示と共に再修正を依頼しました。
それから数日後、事務所担当者より以下のような再修正版が届きました。
【0007】(
※再修正版です。ご指示どおり、構成ではなく作用的な記載にいたしました)
上記請求項1記載の発明によれば、
発光素子が、所定の経路を介して供給された駆動電流に応じて発光し、
光電変換素子が、発光素子より放出された光を受光し、受光した光に応じた光電流を出力し、
第1のキャパシタが、光電変換素子より出力された光電流の積分値を電荷として蓄積し、
コンパレータが、第1のキャパシタに蓄積された電荷に応じて設定される第1の電圧が、データ線を介して供給されたデータに応じて設定される第2の電圧に達したタイミングで、出力電圧のレベルを切り替え、
そして、第1のスイッチング素子が、コンパレータからの出力電圧に応じて導通制御され、第1の電圧が第2の電圧に達していない場合には、発光素子を発光させるとともに、第1の電圧が第2の電圧に達した場合には、発光素子の発光を停止させるので、表示の均一性を有効に確保することができる。
”っていうか、確かに「構成」って言葉はなくなってるし、なんとなく作用的な記述には一見なっているけど、実体的には構成のコピペのままやんか。そうじゃなくて、作用だよ、さ・よ・う!” これじゃあ、らちがあかないと思ったA君は、事務所担当者に電話して、自分の意図を直接伝えることにしました。数度のやり取りを経て、ようやく作用らしき記載をしてくれるようになりましたが、今度は、独立請求項にはない構成要件を勝手に取り込んで上位概念の作用を論じる始末・・・。
”はぁ〜っ。ここに書かれている作用は、従属請求項の限定事項があってこそ成り立つ話なんなんだよなぁ、そうぢゃなくて・・・。でも、それを理解してもらうのにどんだけエネルギー使うんだろう。もう疲れた・・・。自分でやっちゃおう、自分で・・・。”(すっかり諦めモード)
そう思ったA君は、自分で下記のように修正しました。
【0007】(A君による修正)
上記請求項1記載の発明によれば、光電変換素子より出力された光電流の積分値を第1のキャパシタの電荷として蓄積し、この電荷に応じて設定される第1の電圧が第2の電圧に達したタイミングで、発光素子の発光を停止させる。これにより、
発光素子から放出される光の総量をプログラムできるので、発光素子の特性ばらつきや経時劣化等に依存することなく、表示の均一性を有効に確保することができる。
それ以降、クレーム、および、作用・効果に関する記載については、A君が担当し、事務所担当者はそれ以外の部分を担うことになりましたとさ。
めでたしめでたし。
知財担当者と、事務所担当者との役割分担ってこういう形態もあるんですね〜(って、オイオイ)
(お詫び)unknown-manさん、すみませんーm(_ _)m
←宜しかったらポチっとにゃ〜m(_ _)m
- 2006/07/04(火)|
- 明細書系
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コメント:9
どもども、unknown-manです。
いつも楽しく拝見しておりましたが、最後の文章でビックリしてしまいました^^;
基本的に、スチャラカ「企業内弁理士」の日常を適当に書き散らしているだけのしょうもないブログですが、見ていただいているようであり、恥ずかしい思いで一杯です^^;
- URL |
- 2006/07/05(水) 10:22:36 |
- unknown-man #-
- [ 編集]
unknown-manさん、コメントどうもありがとうございます。
いやいや、企業サイドの本音が語られている記事もあったりして、興味深いブログだと思います。こちらも、いつも楽しく拝見させていただいております。
今後ともどうぞ宜しくお願いしますm(_ _)m
- URL |
- 2006/07/06(木) 12:39:42 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
- [ 編集]
確かに、課題解決手段にクレームのコピーだけでなく、作用・効果を書くのはいいと思うのですが・・・。
実施形態でも結局同じことを書くのですよね。クライアントからページ数稼ぎをするなってしかられませんか?
- URL |
- 2006/07/07(金) 23:11:45 |
- 元企業知財 #qbIq4rIg
- [ 編集]
元企業知財さん、コメントどうもありがとうございます。
>実施形態でも結局同じことを書くのですよね。クライアントからページ数稼ぎをするなってしかられませんか?
叱られるかどうかは、クライアントのポリシーに依存すると思います。このポリシーには、大別して、審査重視の考え方と、権利活用重視の考え方とがあります。クライアントのポリシーが前者の場合には、本記事で例示したように、【課題を解決するための手段】で請求項毎の作用・効果を明確にする記載スタイルが好まれているようです。これに対して、後者の場合には、このようなスタイルはNGとなるわけです。元企業知財さんが、慣れ親しんだ組織は、後者の考えを持っていたのではないかと推察します。
ちなみに、実施例の効果と発明の効果とは、権利解釈上、明確に相違します。したがって、両者が明細書中で重複または一部重複するのは、基本的に当然のことだと思います。ただし、そうはいっても、その書き方には工夫すべきで、元企業知財さんが仰るように、”単なるページ稼ぎ”との印象をクライアントに与えるような書き方は避けたいですね。
なお、本記事で例示した明細書では、【課題を解決するための手段】で”請求項1記載の発明”という表現が登場しますが、これは、大昔の雰囲気を醸し出すための演出であり、このような記載を推奨するものではありません。なお、この点の詳細については、過去の記事「”おいしい商売”終了宣言」をご参照下さい。
- URL |
- 2006/07/08(土) 17:32:35 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
- [ 編集]
確かに、
機械・電気系の明細書では、
課題解決手段には「発明」の作用・効果を書き、
実施形態には、具体的な構成の作用・効果を、前記した実施形態によれば云々と書いても重複は目立ちません。
実施形態では、図面を使って具体的な構成(下位概念の文言+符号)を書きますので。
ですが、化学系の明細書でこれをやることは至難のわざです。
(純粋な化学系になればなるほど)
そもそも、図面なんか使わないことが普通ですし。
化学系の弁理士さんが書いてる明細書でも、ほとんど、課題解決手段はクレームのコピーで、
せいぜい【発明の効果】をその後に付しているぐらいです。
具体的な構成と効果は実施形態に集中させてます。
化学系の明細書というのはまだまだ発展途上なのでしょうか?
- URL |
- 2006/07/09(日) 12:57:36 |
- 元企業知財 #qbIq4rIg
- [ 編集]
元企業知財さん、コメントどうもありがとうございます。
ブログ主がこういったことじゃ困るんですが、化学系は明るくないので、そこいら辺のことは何とも言いかねますーm(_ _)m
どなたか化学系に明るい方、元企業知財さんの↑にレスしてくれると嬉しいです。
- URL |
- 2006/07/10(月) 13:50:58 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
- [ 編集]
【課題を解決するための手段】のスタイルをどのようにすべきかは、権利解釈の不利と読み手の読みやすさのバランスで議論すべき話であり、重複記載が単に目立つかどうかというトリビアな観点のみで論じるべきものではないと思います。
そこいら辺をよく検討した上で、結果的に、本欄の記載がクレームのコピペを基本となり、具体的な構成と効果は実施形態にて記載するというスタイルになったのであれば、”開発途上”ということにはならないと思います。本欄の記載をクレームの構成のみに留めるというのは、権利活用時に不利なクレーム解釈を招かないために有効な方法の一つですし、企業時代の経験を踏まえて自分もコピペ型がベターであると考えています(詳細については、過去の記事「【課題を解決するための手段】が担うべき役割」をご覧下さい)。
その一方で、クライアント側の個々の知財担当者から見れば、「重複記載に対して料金を払うのか?」という意見ももちろんあります。しかしながら、これは単なる料金体系の問題に過ぎず、クライアントとよく話し合って料金改定をすればいいだけの話です。重複記載それ自身が悪いのではなく、クライアントのコンセンサスが得られていないことに問題があるのだと思います。
- URL |
- 2006/07/10(月) 15:15:16 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
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私が所属する知財部は、【課題を解決するための手段】の欄に、メインクレームの構成要件「のみ」により、どうして課題が解決できるのかを記載するようにしており、代理人にもその旨お願いしてます。
メインクレームの構成要件「のみ」で課題が解決できることを説明できれば、
1.そもそも「発明」が何なのかを理解している
2.課題解決に必要な構成要件は何かが分かる
3.もっとも広いクレームのサポートになる
ということになると思います。
【課題を解決するための手段】の欄を読むと、「明細書を書いた人が発明を理解しているか」が大体分かります。
- URL |
- 2006/07/11(火) 20:14:19 |
- Yuki #V41cDGzY
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Yukiさん、コメントどうもありがとうございます。
そうですね。上位概念の構成に対する作用・効果の記載を読めば、それを書いた人の理解の程度が大体わかりますね。作用・効果の記載を上位概念の構成だけで完結でき、論理に破綻なく、しかも読み手を分かった気にさせるというのは結構難しく、それ相応の理解と手間が必要です。
それと、付け加えるならば、書き手の”権利活用に対する意識レベル”も分かりますね。
- URL |
- 2006/07/12(水) 23:21:43 |
- 特許男(壱) #8rqY0Uyg
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