”雨が降れば桶屋が儲かる”的な明細書

 特許男(壱)は、主要な業務の一つとして、製品クリアランス調査や他社問題特許調査等もある関係上、結構な数の公開公報や特許公報を読むことが多い。その際、非常に困るのが下記のようなタイプの明細書だ。

  【課題を解決するための手段】
 かかる課題を解決すべく、本発明は、うにゃららなAと、ほにゃららなBと、へにゃららなCとを有するシステムを提供する。(注:ここはクレームのコピー)
  【発明の効果】
 本発明によれば、うにゃららなAと、ほにゃららなBと、へにゃららなCとを有するので(注:ここまではクレームのコピー)、処理の高速化を図ることができる。

 ハッキリ言って、これじゃさっぱりわからん!いや、文言上、発明の構成が”A+B+C”というのはわかりますよ。発明の効果が”処理の高速化”っちゅーのもわかる。でも、”A+B+C”という構成がどうして”処理の高速化”という効果に結びつくのかという点に関して論理的な飛躍があり、両者を繋ぐ理由付け、すなわち”作用”が欠落しているがゆえに、実体として意味不明の域を出ないのだ。
 というわけで、こういう場合は、明細書の実施例(注:【発明を実施するための最良の形態】の記載のことです)のどこかに”作用”が書いてあるはずなので、そこを注意深く読んでいくことになる。

 実施例の1ページ目、何も書いてない・・・。
 実施例の2ページ目、何も書いてない・・・。
 以下、虚しい期待が続く・・・。
 そして、実施例の最後に”とーとつ”に記載された、とどめの一文!

 『以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、うにゃららなAと、ほにゃららなBと、へにゃららなCとを有するので、処理の高速化を図ることができる。』

 ”どこが明かなんじゃ!どこがっ!”

 こういうパターンに出くわしたときには、”いいかげんにせいっ!”と心底絶叫したくなる。上述した作用の部分がわからないから、こちとら、くどくど書いてある実施例を読んでんじゃねーか。その仕打ちがこれかい、おいっ!

 このように、作用に関する記述がまったく以て欠落している明細書のことを、特許男(壱)は”雨が降れば桶屋が儲かる”的な明細書と勝手に命名することにした。

 構成・・・雨が降れば
 効果・・・桶屋が儲かる
 作用・・・なぜそうなるのか不明・・・?

 雨が降ればという構成から”なぜ”桶屋が儲かるという効果が生じるのか、この”なぜ”に相当する作用が欠落していると、大抵の場合、読み手は発明を理解した気にはなれない。最初に挙げたケースでいえば、例えば下記のような作用に関する記述がなされてこそ、読み手が理解できるのである。

  【発明の効果】
 本発明によれば、うにゃららなAと、ほにゃららなBと、へにゃららなCとを有し、AとBとが同一の処理対象を並列的に処理するので、処理の高速化を図ることができる。

 ぢつは、こういったタイプの明細書は、技術内容が難しいハイテク系に結構見受けられるが、その背景には、書き手が発明の内容を十分に把握していないということがある。そもそも、書き手自身が不確かな状態で作成した明細書など、(自分を含めて、ごく普通の技術知識レベルの)読み手が理解できるわけなかろう。

 構成、作用および効果というセットで発明を捉えるのは、特許実務家が発明の本質を考える際の最も基本的なフレームワークのはずなのにねぇ。

 こういった案件を審査する審査官もさぞ大変なことだろう・・・(合掌)

P.S. なお、明細書のどこで、発明の作用・効果を書くかについては、色々と議論の余地はあるので、機会をあらためて論じたいと思います。


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  1. 2006/07/03(月)|
  2. 明細書系
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コメント

私も

このような明細書を「雨が降れば桶屋が儲かる」という記載の仕方と同様に言っています。このような明細書で作用を発見したことは記憶にありません。
できれば、構成(手段)の次に作用を記載して欲しいものです。従来(かなり昔)の【構成(手段?)】【作用】【効果】と分けるのでは対応付けが面倒なので。
実施形態の下位概念の構成で出てくる作用が上位概念(請求範囲の発明)で同じように得られることは想像でしかないので、それぞれで作用が得られることをしっかりとアピールすべきと思っています。
要するに、実施形態とその前とでは上位・下位の別々の概念となるので、それぞれで構成(手段)、作用、効果を記載する流れとしています。
  1. URL |
  2. 2006/07/03(月) 16:42:55 |
  3. 一歩 #mQop/nM.
  4. [ 編集]

「ご利益」と「手品のタネ」

発明者からのヒヤリング(誘導尋問ともいう(笑))の際、大ネコは、最初に、
「この発明のご利益は何ですか?」
と聞き、次に、
「そのご利益を生み出している手品のタネはなんですか?」
と、効果に対応する特徴的な処理の部分を抽出するように心がけています。

特許男(壱)さまが今回話題にされた「雨が降れば桶屋が儲かる的明細書」って、
発明分析・ヒヤリングを、発明の構成からスタートした場合に発生しやすいような気がします。
==大ネコ
  1. URL |
  2. 2006/07/03(月) 19:44:25 |
  3. 大ネコ #kbbpDiHs
  4. [ 編集]

そういうアプローチもあるんですね。

 なるほど、効果→作用→構成といったアプローチですか。確かに、効果的かも・・・。自分も今度、大ネコ式アプローチを試してみようと思いますーm(_ _)m
 ちなみに、特許男(壱)は、構成→効果→両者を繋ぐ作用というアプローチで、発明を把握しているみたいです(あまり厳密には考えたことなかったもので)。
 いずれのアプローチを採るにせよ、構成、作用、効果の3点を自分自身できちんと整理することが大切ですね。
  1. URL |
  2. 2006/07/03(月) 21:44:02 |
  3. 特許男(壱) #8rqY0Uyg
  4. [ 編集]

分かり易さと権利活用とのバランス

一歩さん、コメントどうもありがとうございます。

 読み手(特に審査官)に対して、各請求項の作用・効果をしっかりとアピールすることは大切なことだと思います。発明のメリットがとんとわからない明細書や、その構成からなぜそういったメリットが導出されるのかわからない明細書は、読み手に全然優しくないです。
 その一方で、権利活用上の不利を招かないために、請求項と作用・効果とをあまり明確に対応付けたくない、という考え方もあります。特に、US出願が多い会社やUSでの訴訟を多数経験している会社は、こういった考え方が強いようです。
 読み手に対する分かり易さと、権利活用上の不利を招かないための対応という、2つの考え方のどちらを優先すべきか、或いは、どのように調和させるべきかという事項は、明細書のスタイルをも左右するディープなテーマなので、別の機会にあらためて論じてみたいと思っています。
  1. URL |
  2. 2006/07/03(月) 22:23:22 |
  3. 特許男(壱) #8rqY0Uyg
  4. [ 編集]

「効果中心の発明分析方法」

特許男(壱)さま、
 「効果→作用→構成といったアプローチ」は、大ネコのオリジナルではなく、知財協C8Bコースで講師の遠山先生から習いました。「効果→構成」から始めて次に「構成→効果」との逆写像を略2往復行う方法です。
 それまでは、発明特定事項を うーーん と睨んでの上位概念抽出を試みて、うまくいく場合もあり、またうまくいかない場合もあった大ネコにとって、まさに「目からウロコ」というほどの衝撃でした。
 アイディアの出所をきちんとクレジットすべきと思い、追記させていただきました。
==大ネコ
 
  1. URL |
  2. 2006/07/04(火) 04:27:39 |
  3. 大ネコ #kbbpDiHs
  4. [ 編集]

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